レトロなニットの話・その3

私が持っているたった1冊の『世界の編物』は1976年の発行のもの。どうもこの表紙の糸瓜襟(へちまえり)のプルを編み込み模様省略ヴァージョンで編んだのが棒針編みのセーター第1号らしいのです。糸はグリーンの濃淡と白の入った杢糸(これって業界用語?、最近アウトレット系の毛糸のネットショップで勉強させていただきました)で、ミンクルツートップというもので三菱レーヨンが発売元。ウールとアクリル半々のもちろん10玉底値のバーゲン品です、大学に入学したころなので、お金もないし・・・。おもしろいのはアクリルにボンネルという商標をつけて売っていることと、ラベルに赤字でめだつように「トップ染め・防虫加工品」と書かれていること。高品質さは、私のいいかげんな保管方法にも関わらず、いまでも編地の風合いを保っているということ。ラベルもエンボスの模様が入っていて、この会社の力の入れようが伺えます。いまでは毛糸ではなくインターネットを支える光ファイバーに主力が移っているとは・・・時代を感じます。

へちまも都会ではめったに見なくなった今日この頃・・・糸瓜襟、ノスタルジックな響きのこの言い方通用しなくなってきていますね。糸瓜襟といっても、今このゴム編みを見るとなんだか粕漬け胡瓜のようにへたっているのは、もともとのゴム編みも見よう見まねであって、さらによく着た証拠。でも家のなかだけ、というのは完全に前身ごろのメリヤス編目下のほうが×印のがクロス目になって「間違った編み方」の典型になっているから。おおっぴらに外出していくのが恥ずかしかったのです。ほかのパーツは途中から気が付いたとみえて「正しい編み方」になって一応垂直にたっている。編みなおせばよかったけれど、勢いでそのままとじちゃった。そのことがけっこう長くトラウマになっていてこれを見るたびに「間違った編み方」だったと心にずきーんときていました。

ところが、メアリ・トマスのパタ-ンブックを読んで目からうろこ!クロス目とは模様の一種と書かれていた!私の知り得る日本の一般的な編み方の基本マニュアルを読んだ限りでは、「模様」などという言い方は絶対にしていないし、外国では模様としてとても古くから編まれていたなんて・・・ちょっとショック。これも明治維新の文明開化政策以降、生活文化技術の先端にある19世紀から20世紀のある特化した西洋文化を見よう見まねでともかく移入しようとした、そんな姿勢が日本の編物文化にも見られる思いがしました。だから、2,3世紀の東欧の農民の素朴な編み方のなかにそれが見られるという記述を読んで、急に何世紀も前の名もないニッターとヴァーチャルに交信できたような気持ちになったものです。えっ、あなたも編んでいたの?なんてね。

クロス目のメリヤスとは「間違った編み方」ではなく、「クラシカルな編み方だが、今は一般的ではないメリヤスの編地」というのがより適切かと思われます。

メリヤス編みも怪しかったのに、どうして1着仕上げることができたの???・・・これは『世界の編物』とともに大きな謎なのです。(20100201)

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