毛糸屋さん巡りー都市伝説の石渡糸店

数年前にグーグルマップで毛糸屋さんマップを作った当時のお店のうち、すでに3件は消えています。やはりWebの影響でしょうか。ネットショッピングや海外からの個人輸入も簡単になったなかで、町田のオカダヤさんが首都圏最大を標榜しているのは本当にうれしいこと。

町田にはドイツのソックヤーンに特化したkeito屋さんも誕生しています。アットホームな雰囲気で、編み針や糸の編み試しコーナーがよそにはない特徴。私が編物を始めたころはイタリアの毛糸の発色が素敵であこがれの的だったし、アランやガーンジーを英国のイエーガーで、モヘアのハーフコートをローワンのキッドモヘアで編むのは、今も夢なのです。一方、ドイツからはほとんど入ってなかった記憶がありますが、ここ数年で、ソックヤーンを中心にドイツ風ニッター市場が生まれたといってよいでしょう。

輸入糸に負けまいと国産毛糸もしのぎを削っているけれど、ふと、輸入糸の老舗中の老舗にまだ行けていないことに気が付き、青山一丁目の三つ葉屋さんの閉店を知って、絶対に今シーズンは行かねばと意を決したのでした。六本木交差点角の都市伝説ともいえる石渡糸店です。

1階は洋品と編み見本的な作品が展示販売されており、洋裁小物も少し置いてあり、階段で地下に降りると壁いっぱいに、やはり編み見本と輸入毛糸が一面に。ご当主が一つ一つ解説しながら、細い糸長のあるものを添え糸にして、原材料は安価であることを強調していました。輸入糸は高いというイメージを払拭したいのでしょう。

よく観察すると、いわゆる毛糸会社のパターンではなく、細かな計算が施されたオリジナルばかりであることがわかりました。地下の大きなテーブルではご常連と思われる編み物の先生方のサロンが開催中。プロ好みのお店、しかし遠来の一元さんにも温かく寄り添ってくれる珍しい毛糸屋さんです。新しいタイプの毛糸屋さんの共有点は、パソコンに向かって何か打ちながらお客と話し、大切にしているのはデータなのか、毛糸なのか、編み物なのか、編んでいる人間なのか、よくわからない残念な姿勢が見られます。石渡さんはそれと真逆なニットのアナログ性をみごとに保存しておられました。

いくつかの編み方を聞くと、口伝的に教えてくださったのですが、英語のレシピと本質的に同じ、編み方の順序説明でした。そしてむずかしいことよりも、マフラーの幅を広げればベストへの展開が可能であること、着るものは自分に合った身幅から考えること、頭の周りと身幅半分がほぼ同じなので、アランセーターの身ごろ途中でいやになったら帽子にしてしてしまえばよい、など、私にとっては気が付かなかったことばかりで、持参した大きめのクロシェへのアドバイスも的確でした。

90を優に超えた先代の淡いピンクのネックウォーマーもセーターも暖かそうな手編みでした。どうぞいつまでもお元気で。

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