レトロなニットの話・その4

『世界の編物』1976年秋の特大号にはいろいろ興味深いことが書いてある。ひとつは、これまでの型紙方式から、編み図方式に転換したということ。でもすべてではなく、ところどころニットの編みあがり寸法だけ表示してあって、表紙の作品も寸法だけ。そうすると、前回書いたグリーンの糸瓜襟は、自分で計算して目数を割り出したことになるけれど、そんなこと全く記憶にない。なんだか必死で取り組んだらしい。

また、この号でとても気に入っていたのは、大胆なボーダーの作品を、パリのリセの帰りのような雰囲気のモデルで着た写真。かたやフォークロアもありヨーロッパ各国の代表的な糸で編んだ作品も大人っぽく、バラエティに富んで今見ても新鮮なものがあります。そして3人のニットデザイナーや評論家が丁寧な作品評をつけていて、着こなしについてもどうすれば垢抜けて見えるのか、体形によっては着るのに注意するデザインがあることを示して、ニットファンのセンスアップを促している。きちんとした編物批評を展開しているところがすばらしい。ホビースト(hobbyist:趣味[道楽]に熱中する人?)という変わった肩書きを持つ人のエッセイもあったりする。

輸入毛糸専門の毛糸屋さんの紹介記事もあり、1976年当時、日本に流通していた輸入毛糸6カ国、23の会社の約400種だそうで、戦前からはBeehive(PATONS)が入ってきていたという。私が本物の色調や質感の立ち見だけしていたのは、丸の内の古い丸ビルのなかにあった三ツ葉屋さん(現在・青山ツインタワービル内)、京橋の越前屋さん。実際に手の届く値段の毛糸の仕入れというのは大げさだけど、池袋のつよせあたりで買っていたのではないかと思います。

当時の広告では、ユザワヤはまだ蒲田と福島に2店舗。東京周辺に20店舗近い支店を展開していたサナダには一度も行ったことがなかったけど、横浜駅西口にまだあるということを最近ネット上で知って、初めて出掛けました。地下の洋品店と花屋さんの角までは知っていても、その右奥にあるとは、横浜に20年以上住んでいて全く気が付かずにいたとは・・・。毛糸の木製陳列棚が整然と壁にならんでいて、歴史を感じさせます。残念なのは、照明が今ひとつ暗くて、輸入毛糸の発色のよい色調を認識しにくいこと。人工光や日光のもとでそれぞれ色合いが違ってみえる時があるので既製品でも気をつけて買うものですよね。サナダ本体の会社は別の名前になっており、ネット上では沿革などがよくわからないけれど、『世界の編物』では創業は大正10年と書かれていて、最も長いこと生活文化を支えてきた毛糸屋さんであることがわかるのです。

その後1970年代後半から不況ということもあって、手づくりブームが到来し、フランスの100idees(サンイデー)という手芸雑誌の日本語版も1,2冊買ったと記憶しているけれど、いま残っているのは、この『世界の編物』それから『ヨーロッパの編物』2冊、ロンロンママこと『西村玲子のニットブック』2冊・・・だったけど懐かしくてアマゾンの古本でもう1冊ロンロンママを買い足してしまった。。繰り返しノスタルジーに浸りながら見て、ずっと一度は編んでみたかったデザインにチャレンジしたくなっています。
(20100205)

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